冬の風景
「陽だまりの 筆山仰ぎ 湯の香り」 (白扇)これは少し説明が要る。高知市に筆山と呼ばれる小高い山がある。この山の真向かいに「三翠園」という老舗の旅館がある。これは藩主の山之内家の屋敷の跡に立てられた由緒正しいホテルである。この三翠園では最近温泉が湧き、入浴できるようになった。この温泉に浸かっていると、この筆山全体がまるで陽だまりの中にあるような割にスケールの大きい気分になれる。
「陽だまり」は季語として認定されていないかもしれないが、冬の雰囲気をよくあらわしているものと考え、勝手に季語とした。
「久々の 老母の笑みや 柚子湯かな」 (白扇)
介護の下にある老母は、普段は、ゆっくりと風呂に入る雰囲気にないのだろう。「ゆず湯に入った」と少し上気した顔で報告してくれた。何かほっとしたと同時に、その意外に色気のある顔に驚いたことを覚えている。
「雨戸くる 音聞き迷う 冬の床」 (白扇)